
Bruce McNaught イギリス勅許会計士 The Guernsey Accountants 代表
ガーンジーに拠点を置く企業や個人への会計税務サービスを提供している会計事務所。業種によって税率やルールが変わる複雑なガーンジーの法人税制をいつもわかりやすく説明してくれる。地元企業からも『親切で丁寧』と評判の人気会計事務所。
Q. ガーンジーはイギリスの富裕層の方々が多く移り住み、セント・ピーター・ポートの港には高級ヨットがずらりと並ぶエレガントな島(国)です。ここに多くの富裕層を惹きつけている理由は明らかにその税制が大きいと思います。まずはガーンジーの税制について教えて頂けますか?
Bruce: そうですね。税制が富裕層を惹きつけているのは確かだと思います。法人税からお話したいと思いますが、まずは今の税制になった経緯をお話したいと思います。
昔は2種類の法人税がありました。ガーンジー居住者(ローカル)が保有している法人は税率が20%で、国外在住者が保有している法人はゼロ%だったのです。
Q. ローカルの方が高かったのですね。珍しいですね。
Bruce: そうなのです。そのかわり法人から配当などで資金を株主に抜いても個人には税金がかからないシステムだったのです。国外の株主は配当などを受け取った時に自国で課税されるはずなので、それはそれで良いという事だったのでしょう。ガーンジー政府は実際にガーンジーに住んで公共サービスを受けている人達から税金を20%徴収できれば良いというスタンスですね。
Q. なるほど、理にかなっていますね。
Bruce: ところが、これはEU諸国にとっては良くない事だったのです。EU諸国の人や企業がガーンジーに法人を作ってそこに利益を溜め込んでしまう。そうすると各国は課税できない事になってしまっていたのです。
Q. それは怒りそうですね。
Bruce: はい。怒られた というか、EU諸国から「ローカル株主と国外株主で税率を変えるのはフェアじゃない」とかなりのプレッシャーを受けたそうです。そしてガーンジー政府は現在の税制を作りました。結果全ての法人税をゼロ%にしてしまおうという事になったのです。一部の業種は例外ですがそれは後述しますね。
Q. 法人税は全てゼロ%にして、個人から所得税を取ろうという事ですか?
Bruce: その通りです。法人税はゼロなかわりに、法人から配当などを受け取ったローカルの方々に20%の所得税を課すようになったのです。
Q. そうなれば結局20%の税収を得られるので同じ効果が得られますね。
Bruce: そうなのですが、これはガーンジー政府にとって大きな決断でもありました。前なら会社が利益を得た時点で課税できたわけですが、今は会社から配当等で利益を株主に出さないと課税できないのです。法人に利益を溜め込まれたらいつまでたっても課税できないという事になります。結果的にはこの税制で定着したので、上手くまわっているのだと思います。
Q. 先程お話に出た例外の業種とはどのような業種ですか?
Bruce: 金融業(銀行、リース、保険)は法人税率10%です。そのかわり法人からの配当等の税率は10%となります。つまり金融業界は政府が半分だけ税金を先取りするという事ですね。
他には不動産等を賃貸して得た賃貸収入については法人税率20%。電気やガスなどの公共事業も20%。つまりこれらの収入は政府が全額税金を先取りするという事です。
Q. どちらにしても合計で20%という事ですね。
Bruce: その通りです。法人と個人の合計で20%ですから、他国と比べると低税率ですね。
Q. そうですね。それでこれだけの富裕層の方々が集まってくるのですね。ここの居住者になっていればガーンジーで課税されるので低税率の恩恵を受ける事ができますね。では個人の所得税についても教えて頂けますか?
Bruce: 個人所得税は基本的に一律20%です。税制上ガーンジーの居住者となるには、ミッドナイトルールを満たす必要があります。1年のうちで最低合計183日ガーンジーにいないといけないのですが、その日数は何回ミッドナイト(0:00)にガーンジーにいたかで判別されます。
Q. わかりやすいですね。例えば私が183回ここでミッドナイトを過ごすと、ガーンジーで課税してもらえるようになるのですね。
Bruce: そうです。ただ、ガーンジーの所得税はワールドワイドインカムが対象になりますので、あなたのアメリカや日本での所得も課税される事になりますけどね。
Q. ワールドワイドインカムなんですか・・それは残念です(笑)
Bruce: そんな事はないんですよ。ガーンジーは多くの国と租税条約を締結しているので、二重課税がないように処理する事ができます。ガーンジーで税金を払えば他の国での税金はその分軽減されるはずです。
Q. なるほど、それはいいですね。
Bruce: 他にはキャピタルゲインに対する課税がないのも大きいですね。
Q. 全くないのですか? 例えば私がガーンジーに住んでいて、不動産や株式投資でキャピタルゲインを得たとしたらそれは非課税という事ですか?
Bruce: はい。ゼロです。ガーンジーに投資家が集まる理由のひとつですね。それと、相続税がないのも大きいです。資産家の方々にとって相続税は非常に大きな負担になりますからね。
Q. 資産家や投資家にとってはパラダイスですね。
Bruce: そうですね。あとリッチな方々は豪邸に住んでいますが、ここには固定資産税もありません。また、きっと彼らは高額な買い物もすると思いますが、VAT(付加価値税)もありません。個人から徴収する税金は所得税のみなのです。
Q. そうですか。では港にある大きなヨット達も非課税なわけですね。
Bruce: そうです。更にいうと、スーパーリッチな人達は所得税に上限を儲けることもできます。これ以上はもう払わなくて良いという上限ですね。これはいくらか忘れてしまったくらい高額な金額でしたが、その恩恵を受けている人もいるのでしょうね。
Q. ヨーロッパでお金持ちになったらガーンジーへ という感じですね。
Bruce: 特にイギリス人にとっては魅力的でしょうね。イギリスの各都市にも1時間以内で行けるし、フランスもすぐそこです。ビジネスインフラはイギリスとほぼ同じですから資産をここに保管しても安心です。
Q. そんな魅力的な場所でしたら移住したいイギリス人は多いでしょうね。ちなみにBruceさんはどういう経緯でこちらにいらしたのですか?
Bruce: 私はイギリス国内で会計士をしていたのですが、その時の事務所がガーンジーにもオフィスを持っていたのです。ある時3週間くらいここに出張する事がありとても気に入りました。そして移住する事にしたのです。
Q. 移住すると言っても、簡単にはいかないですよね。
Bruce: そうですね。ただ私の頃はまだ法律が今ほど厳しくありませんでした。当時は15年のローカルライセンスが取れたのです。今は8年になってしまいました。
Q. ローカルライセンスという言葉をここではよく耳にするのですが、それはビザのようなものですか?
Bruce: 少し違いますね。ローカルライセンスを持っているとローカルマーケットの物件に住む事ができるのです。これがないとオープンマーケットの物件に住むしかありません。
Q. そのローカルマーケットとオープンマーケットという言葉もよく聞きますね。不動産マーケットが2つあるという事のようですが、どういう事ですか?
Bruce: そうなんです。2つあるのです。不思議ですよね。これについても少し経緯を説明しますね。
ガーンジーは上述のようにイギリス人にとって魅力的な場所なので、その昔大勢のイギリス人がここに移住してきた事があったのです。すると何が起こるかというと、不動産価格が一気に高騰してしまったのです。
Q. 確かに、小さな島だけに人が増えたらインパクトが大きそうですね。
Bruce: そうです。そうするとガーンジーに住んでいるローカルの人達の生活が成り立たなくなってしまいます。そこでガーンジー政府は2つの不動産マーケットを作ってそれを制限する事にしたのです。
不動産の95%はローカルの人達が住むためのローカルマーケット。ここに住むためにはガーンジー政府からローカルライセンスを取得していないといけません。
残り5%のオープンマーケットはライセンスが無くても誰でも住む事ができます。しかし5%しかないので当然価格は非常に高いものになります。たいていは普通の人ではとうてい住む事ができないような大豪邸です。
Q. なるほど、不動産価格で移民をコントロールしているのですね。ちなみにそのローカルライセンスを取れるのはどんな方々ですか?
Bruce: ガーンジーにとってその時必要な職業の人であればライセンスが取れます。例えば医者とか教員とかはこの小さな島出身の人だけではまかなえません。そこで外国からの移住者を受け入れます。弁護士や会計士もそうですし、シェフなども対象になりますよ。
Q. それなら私でもローカルライセンスが取れるかもしれませんね。
Bruce: 多分取れると思いますよ。だた、今はライセンスが8年になってしまいましたからね。私の頃は15年でした。15年済み続けるとガーンジー国民になる事ができるんですが。
Q. という事は、8年後はもうここに住めないという事ですね。
Bruce: いえ、オープンマーケットには住めますよ。そこであと7年住めば私のようにガーンジー国民になれます。
Q. それには私が豪邸に住めるほどスーパーリッチじゃないとダメですね(笑)。
Bruce: そうですね(笑)。
Q. 次にガーンジーでのビジネスについて教えて下さい。以前Specsaversというガーンジー企業について教えて頂きました。ガーンジーを代表する成功事例ですね。
Bruce: はい。あそこはイギリス国内で最も有名なメガネチェーンだと思います。EU内の他国にも展開していますね。
Q. インターネットでそこのビジネスモデルを拝見しました。フランチャイズのようでそうではないのですね。各店舗はそれぞれ独立したメガネ屋さんで、Specsaversというブランドをガーンジーの会社から購入しているようですね。その後はフランチャイズフィーとかは一切取っていないようでした。
Bruce: フランチャイズフィーはないと思いますが、いくばくかの広告費は取っていると思いますよ。あれだけイギリスで大々的にテレビCMしていますからね。
Q. フランチャイズフィーを取らないならば、どこで収入を得ているのかと疑問に思ったのですが、継続的な収入はメガネ自体の卸売で得ているようでした。大規模な購買ができるため安く各店舗に卸す事ができて、そのため各店舗はこの会社から継続的に仕入れていると。
Bruce: 素晴らしいモデルですよね。店舗側もブランド側もWin Winですね。
Q. 例えばですが、こんなモデルはあり得ますか? 日本には素晴らしい商品、特に機械を作っているメーカーが沢山あります。その企業がガーンジーに法人を持ってそこで機械を保有し、そこからヨーロパ各国の顧客にリースをするというモデルです。
Bruce: あり得ると思いますね。実質的には金融業になりそうなので10%の法人税になりそうですね。サブスタンスルールやVATや移転価格も考慮しないといけませんが、検討する価値がありそうです。
Q. そうですね。具体的な案件が出てきた時にはぜひまた相談に乗ってください。
Bruce: もちろんです。
Q. 最後にBruceさん個人に質問ですが、ひょっとするとBruceさんも大きなヨットを持っているようなスーパーリッチな方なのですか?
Bruce: いえいえ、私はヨットなんて持っていませんよ。飛行機はよく自分で操縦してフランスに行きますけどね。
Q. 飛行機ですか!? もっと凄いじゃないですか!
Bruce: いえ、持っているわけではないですよ。レンタルするんです。4人乗りの小さな飛行機ですが、1時間£150で借りれるんですよ。フランスまで35分くらいですから、家族で行くと民間機よりも節約になります(笑)。
Q. そういう事ですね。安心しました。小型機を操縦してフランスに行くなんて楽しそうですね。
Bruce: ええ、ガーンジーはとても恵まれた環境です。ぜひ色々なビジネスをここに連れてきてください。
Q. はい。がんばります。今後ともよろしくお願いします。

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